『サクラパパオー』感想~鮮やかな色の夢を見たんだ~
※このブログは2017年公演『サクラパパオー』の内容に触れています。観劇前でネタバレを避けたい方等は何卒ご了承ください。
スプリング・ハズ・カム。忘れられない春。
まるで万馬券でも当てたかのように興奮が醒めない。
本当はもう少し醒めたところで書いたほうがまとまるし読みやすくなるのは承知で、敢えてこの高揚を書き留めておきたい。
内容にはざっくりしか触れていないし、演劇を観る、という経験が殆ど無い初心者なので、本当にとりとめのない箇条書き的な文章ですが、一旦続きに送ります。
以前より見たい見たい、と思っていた塚田さんの演技。
SLTコンの前説(会場内注意事項案内映像)で、絶叫する塚田さんを見た時、あ、捕まった、とはっきり思った。この人の演技を見に行かないといけない、と純粋にそう思って、折しも一般販売が始まったばかりのチケットを買いに走った。*1
そして迎えた4月30日。塚田さんの演技は勿論だけれども、どんな劇が見られるだろうか、すごく楽しみで、与野本町駅についた時点でもうわくわくしていた。*2
開場、パンフレットと缶バッチを買って中に入ると、もう既に馬たちと、蹄鉄型のアーチと、芝生とがあって出迎えてくれた。幕が下がっていると思っていたから、じっくり舞台装置を眺めて、パンフレットを読んでいたらあっという間に開演。
ちょっとジャズ風味のおしゃれな音楽、色鮮やかな星、それらをより高揚させるような、テンポの早い実況。
その下に次々と現れる、競馬に魅せられた人々。男たちはみんな、今日子さんの言葉を借りれば、”競馬バカ”で、熱く語れば語るほど、どうしようもない滑稽さがにじみ出てしまう。迷いながら、唆されながら、裏切りながら、でも結局は馬券を買う。買ってしまえば壺中の天、馬とともに走り出す。
終盤、第四レース。
サクラパパオーの薬殺決定が告げられ、けれどもサクラパパオーを信じて、スプリングメモリーを買うことに決める、一連の場面。
この場面中桃色?紫色?のライトが全体に当てられているのですが、ああ、これは全て幻想の中でしかないんだ、とじわじわとせり上がるような気持ちになりました。*3
劇中、サクラパパオーについて確定的に与えられている情報は、
・第四レースに出走する
・レース前に暴れだし、柵に激突して足を折ったが故に薬殺(安楽死)となる
の二点のみ。
ここに予想屋:柴田の言も加えるなら、出身地*4・トラクター一台分で買われた(・序盤は飛ばし、後半は失速するが当たればすごい馬だった)の三点。
第四レース前の一幕では、サクラパパオー=カンタロウ(幸子の亡き夫・ヘレンの元恋人)の前提を皆が共有した状態になり、あれよあれよという間に高額万馬券が現れるが、そんな確証はどこにもないのである。最終的にスプリングメモリーは、往年のサクラパパオーのような追い上げを見せるが、これもただの偶然といえてしまう。
実際、杉原実況では追悼レースという言葉こそあれ、スプリングメモリーについては「これが最後だとわかっているのでしょうか」「驚異的な追い上げです」*5という表現。サクラパパオーに”会っていない”者からしたら、引退レースの馬が、勝った。ただそれだけでしかない。
だいたいが、サクラパパオーがヒロくんのために頑張るといった→でもどうやって?→他の馬と伴走するのでは?→スプリングメモリーなら名前もピッタリ、なんて流れ、傍から見たら正気を疑う。そんなのこじつけじゃないか。
けれどあの場では、それは汗を握る物語で、一度関わってしまえば、もう応援してしまう。中央の、回るステージの中で、懸命に声を張り上げる彼らを見てしまったら、もう観客であるところの私達だって、なんでも良いから勝ってくれよ、と思ってしまう。
そうなると実況の杉原さんだけが高い位置にいる、というのが何となく肝のように感じる。あの位置に一人、レースの様子を実況する者がいると、馬場ステージにいる8人が、皆、ひたすら走る馬に見えてくる。
言葉を喋る、それ以外はただひたすら何かに向かって走る馬。応援していると思ったら、もしかしたら走らされている。男たちは女たちに走らされているかもしれないし、女たちも男たちに走らされているかもしれない。並走する男たち・女たち・恋人たち。
観客は憎めない人間たちのドラマを見ている、と思っている。紙を片付け馬券を渡す*6、実況:杉原の位置にいる、と。
けれど、笑いこそすれ何も手出しできないまま物語の行方を眺める私達は、紛れもなくあの8人が馬に向けるのと同じ眼差しを持っている。
それは恐ろしくて、けれど、それでこそ私たちは人間を許せるのかもしれない。同じ穴のむじなでしょ、なんて。
だから、最後の最後で、今日子さんの「だって大穴かもしれないし!」という台詞に救われるし、また楽しそうに競馬場に来る皆が変わっていないことに救われる。
最後に、これは余談なのだけれど、最終レース頃から蹄鉄型のアーチの一番上に、馬の顔が多分バックライトがつくことで浮き上がってくる。それがまるでサクラパパオーの墓標のようで、ただのレリーフなのに、気づいた時はやっと会えたね、なんて泣きそうになった。
他にも色々あるんだけれど(なにせ肝心の塚田さんの演技の感想書いてない)とりあえず以上!ここまで読んでくださった奇特な方はありがとうございました!